1月の下旬、寒さも和らぎ、少し暖かさを感じる昼過ぎに、散歩で歩いていると、たんぼの近くで、「フュルルーフュルル―」と何かが鳴いている。きれいな鳴き声だ。しかも1匹でなく、たくさん鳴いている。観察してみると、水たまりの中に卵がいっぱい。カエルも発見。もう冬眠から出てきたの?
実は、真冬に産卵のために冬眠から一時的に目覚めたアカガエルの鳴き声です。
カエルの卵のようなけれども何の卵ですか。
それは、アカガエルの卵です。それでは、実際に、観察しましょう。私の動画を見てください。
ヤマアカガエルの鳴き声、産卵(2019年1月21日撮影)
鳴き声が聞こえましたか。?きれいな鳴き声ですね。ちょうどオスがメスの背中に乗って産卵しているよ。このカエルについて説明します。
ヤマアカガエルの特徴
日本には、アカガエルの仲間は、おもに、ニホンアカガエルとヤマアカガエルがいる。どちらも本州・四国・九州に分布し、見分けがつきにくい。その他、地域限定で
リュウキュウアカガエル— 沖縄県沖縄島、久米島
アマミアカガエル— 鹿児島県奄美大島、徳之島、加計呂麻島
エゾアカガエル— 北海道
ツシマアカガエルとチョウセンヤマアカガエル— どちらも長崎県対馬 が住んでいる。
〇体の色は、褐色からオレンジ色なので赤ガエルという名がついている。
〇体の大きさは、トノサマガエルよりやや小さく、アマガエルより大きい。
〇ニホンアカガエルとヤマアカガエルの見分け方は、背中の2本の線が直線だとニホンアカガエル、曲がっているとヤマアカガエルになる。
〇ヤマアカガエルは、山地にも生息することが多いのでこの名前がついた。おとなは、昆虫などの小さな生き物を食べ、森林で生活し、水の中に入ることはあまりない。
〇産卵場所は、水田に産むことがあるので比較的人の目につきやすい。オスはメスに抱きつきメスの背中にのってペアになります。私の撮影した動画を見てください。我が家(広島県)の前の休耕田では毎年、1月下旬~2月中旬に産卵する。
〇一匹のメスが寒天質に包まれた卵を1000個~2000個ぐらい産む。集団で産卵することが多い。
〇1匹のメスが、ひとつの卵の塊を産むので、卵の塊の数がメスの数になる。
〇冬に水を張る水田の減少などにより産卵場所が減少し、絶滅危惧種に指定されている都府県がある。
まだ、冬なのにカエルは、どうして卵を産むのですか。もっと暖かくなって産卵するのではないですか。
よくこのことに気が付いたね。このカエルだけ、こんなに早く生むんだよ。なぜか考えてみよう。
寒い冬に産卵するカエルの仲間
一番に産卵
・私の住む場所(広島県)では、毎年1月の下旬から2月中旬に産卵が観察される。他のカエルの仲間より先に一番に産卵を行う。晴れた日の寒さが少し緩んだ昼間に冷たい水の中に産卵をはじめる。あの「フュルル―・フィルルー」という澄んだ鳴き声でわかる。
ニホンアカガエルもこの時期に同じような場所に卵を産むので、見分けがつきにくい。
ニホンアカガエルの産卵
2022年の2月下旬、ヤマアカガエルの産卵から約10日後に、この湿原に行ってみると、産卵された卵塊の数を数えてみると34個から93個に増えていた。新しく生まれた卵塊は、10日前の卵塊より塊の大きさが小さく、卵自体も小さい。ヤマアカガエルの卵だろうか。
卵塊を手ですくい上げた時に、かたまりですくえたら、ニホンアカガエルの卵で、崩れたらヤマアカガエルの卵と言われています。すくってみると崩れないように見えましたので、ニホンアカガエルの卵の可能性があります。
アカガエルの見分け方などは両生類保全研究資料室のホームページがわかりやすい。
産んだらまた冬眠
・親のカエルは、いったん冬眠からめざめ、卵を産んだあと、まだ寒い日は続くのでまた、水底で冬眠をする。つまり、産卵が終わると鳴き声は聞こえなくなります。産卵するわずかな期間だけ、鳴き声が聞こえるのです。
集団で産卵
・一斉に親のカエルは冬眠から目覚め、集団で産卵し、大量の卵を産む。狭い場所では、集団で多くの卵を産めば、敵が食べきれなく生き残りやすくなります。海で、魚のクサフグやニシンが一か所に集まって集団で産卵するのと同じです。
・卵は14日ほどで孵化し、おたまじゃくしになる。しかし、寒い日は、水面が凍る日もあります。
このカエルが生き抜くためにとった戦略
冬は敵が少ない
こども(おたまじゃくし)が他の動物に食べられたらその種類は減少していきます。とくに、産卵に適した場所は、イモリや水生昆虫など敵が多く、逃げるのが遅い小さなおたまじゃくしは、すぐに食べられてしまいます。しかし、寒い冬では、まだ、他の小動物は、活動をしていません。敵が少ないのです。
早生まれの戦略 種の保存のため
そんな、過酷な環境で、早く生まれたおたまじゃくしは、春には成長し、より大きなおたまじゃくしになっています。他のカエルのおたまじゃくしに負けない大きさになっています。小さいよりも大きいほうが敵に食べられにくくなります。このカエルが行っている生き残るための戦略です。
「やまがえる」と「赤蛙」
ヤマアカガエルは、別名として「やまがえる」とも呼ばれている。比較的標高の高い場所に生息するのでこう呼ばれている。
島木健作の短編に「赤蛙」というのがある。以前、高校の国語の教科書に載っていました。カエルが川の流れに逆らって泳ぐが、すぐに元の場所まで戻される。それを繰り返していた。やがて、カエルは力尽きて死んでいた。という内容の作品だった。日本で生活する赤みがかかったカエルはヤマアカガエルかニホンアカガエルの2種ですので、島木健作が見たカエルは、そのどちらかだったと思われます。
まとめ
ヤマアカガエルは、寒い冬の真っただ中、他のカエルの先駆け、一番早い時期に産卵をする。
他のおたまじゃくしよりも早く生まれて成長し、敵に食べられにくくなり、生き残りやすくなる。